「うま味」ってなんだろう?
うま味の生理学

味が伝わるメカニズム

おいしさを伝える味

料理の本をながめたり、食べ物の匂いが漂ってくるだけでも、私たちはそのおいしさをある程度まで評価することができますが、本当においしいかどうかは、食べ物を口に入れて味わってみないとわかりません。
「味」は、おいしさを総台的に評価するためになくてはならない重要な要素です。

味物質をキャッチ

口腔内

私たちの口の中には、食べ物の味を受けとる「味細胞」と呼ばれる細胞がたくさん存在しています。それは特に舌の表面に集中しています。
私たちの舌の表面を拡大してみると、ポツポツとした突起をたくさん見ることができます(図1)。この突起は棘突起(きょくとっき)と呼ばれ物理的刺激に応答します。
この棘突起にまざってマッシュルームの様な形をした茸状乳頭(じじょうにゅうとう)があり、この中に味覚を受けとめる味蕾(みらい)があります。舌根部には、有郭乳頭(ゆうかくにゅうとう)と呼ばれるクレーター状の組織があり、両乳頭に多くの味蕾が集中して存在します。舌後方の側面には、葉状乳頭(ようじょうにゅうとう)があり味蕾が散在しています(図2・図3)。残りの味蕾は、軟口蓋(なんこうがい)の粘膜上皮などに存在しています。

舌上に存在する乳頭
味蕾

味蕾の総数は、人種、年齢、栄養状態により変化しますが、成人で約7,500個といわれています。また、味細胞は10~12日という短いサイクルで次々と新しい細胞と入れ替わっています。このように新陳代謝が活発なので、嗅覚や聴覚に比べて味覚は歳をとっても衰えにくいといわれています。が、高齢では味蕾の数が減少するので味覚の認知に時間がかかるともいわれています。

「受容体(レセプター)」の役割

味細胞

食べ物を口の中に入れて噛むと、咀囑(そしゃく)することによって味物質は唾液中に溶け出します。そして、味蕾の入り口(味孔)(みこう)に侵入し、味細胞の表面に突出してしている味覚を受容する微絨毛(びじゅうもう)に接触します(図4)。

一般に、私たちの体が外からの刺激(触覚、聴覚、視覚、嗅覚、味覚など)を受け入れる窓口として、生体内の細胞は、その表面膜にさまざまな「受容体(レセプター)」というものを持っています。昧細胞についても同様で、表面膜にはさまざまな受容体が存在しています(図5)。受容体(レセプター)は、細胞外からの刺激(ここでは味物質)に応答する窓口として重要な役割を担っています。

5つの基本味のうち甘味・うま味には、それぞれに対応したタンパク質でできた受容体があります。植物に含まれる苦味成分のデナトニウムやシクロヘキサミドの受容体(タンパク質)が確認されています。一方、酸味と塩味は、体内ではイオンとして機能しており(酸味:水素イオン(H+)、塩味:ナトリウム等のアルカリ金属イオンなど)、これらは各々のイオンチャンネルを通して細胞内に取り込まれます。

味細胞表面膜での味覚受容

うま味は苦味と同様、受容体が存在し、うま味物質がこのタンパク質に結合することによって、うま味の情報が脳に伝わります。そのメカニズムの詳細解明に向けて、今、味覚研究者が研究を進めています。
味細胞に受容されたこれらの各味物質は味細胞の活動を変化させ何らかの神経伝達物質の放出により生じた味神経の興奮が、味情報として脳へと送られていきます。

おいしさの総合評価は脳で

味神経線維を伝わり脳幹(延髄孤束核)(のうかん(えんずいこそくかく))を経て送りこまれてきた味の情報は、大脳皮質の味覚野に伝わります(図6)。味以外の香り、色、形などの外観、温度、歯ごたえなどの食感といった食物情報は、それぞれ特有の感覚器で感知され、大脳皮質のそれぞれの感覚野に伝達されます。そして、これらのすべての情報は大脳皮質連合野に至り、食物の良否や求める栄養素を含むかなどの判断が行われ、最終的に食べ物に関する総合評価が行われ食行動に反映されます。
又、味覚を含む五感情報と内臓感覚の情報は、さらに扁桃体(へんとうたい)へと伝わります。ここでは過去の情報との照合が行われ、食べ慣れていて安心して食べられるといった過去の食体験の記憶も含め、好ましいかどうか(快か不快か)の判断が下されます。
扁桃体からの情報は、さらに視床下部(ししょうかぶ)へと伝わります。好きな場合は摂食中枢を刺激し、食行動を開始させます。好ましくない場台は、食行動がストップされます。好きなものを食べると、脳内にある報酬系(主にドーパミン神経系)の活動が増加し、楽しくなったり、気分がりラックスすることも知られています。
また、ヒトは、おいしさだけでなく、食事をして栄養的にもバランスよく充足された場合も、満足感が得られます。

脳における食物情報の流れ

解明が進む「うま味レセプター」

うま味物質を受け止めるレセプター(受容体)については、現在、世界トップクラスの研究者たちが、その構造やメカニズムについて研究を行っています。
マイアミ大学の研究グループは、2000年に「うま味レセプター」候補を発見したことで大きな話題になりました。2002年にはハワード医科大学の研究グループがアミノ酸のレセプターを発見。
これらの研究成果をもとにうま味レセプター解明に向けた研究の発展が期待されています。

2004年7月に京都で開催された国際嗅覚味覚シンポジウム(ISOT)には、約750人の味覚や嗅覚の研究者が集まりました。7月6日には「うま味レセプター」に関するシンポジウムが開催され、うま味レセプター研究の最先端をいく五つの研究グループから研究現状の発表が行われ、約3時間にわたり熱い討議が繰り広げられました。

グルタミン酸の消化吸収メカニズム

私たちは、食事を通して各種の食物からタンパク質を摂っています。口に入ったタンパク質は胃液や膵液などの消化液の働きで、アミノ酸やペプチドに分解され、腸壁から体内へ吸収されます。腸から吸収されたアミノ酸は肝臓に集められ、血流を介して体内の各組織に運ばれます。そして、たんぱく質の再合成に使われます。
最近の研究によると、アミノ酸に含まれるグルタミン酸(うま味物質)は、ほとんどが腸管のエネルギー源に使われ、さらに肝臓では他のアミノ酸の生合成にも使われることがわかっています。

脳内では独自にグルタミン酸を生合成

私たちの脳内にも沢山のグルタミン酸が含まれています。これらのグルタミン酸は神経伝達物質として、記憶、学習、認知などにかかわる重要な役割を果たしています。 脳内にあるグルタミン酸は、全て脳内のグルコース(糖)から生合成されています。脳には「血液脳関門」と呼ばれるバリアが存在しているので、食事から摂ったグルタミン酸が脳に入ることはありません。大切な役割を担う脳内のグルタミン酸は脳内で厳重に管理されています。

うま味はタンパク質のシグナル

汗をかいたときにしょっぱいものが食べたくなったり、疲れたときに甘いものを食べたくなったり、味覚は私たちに必要な栄養素のシグナルとしての役割を担っています。
甘味はエネルギー源、塩味はミネラルバランスと密接な関係がありますが、うま味はタンパク質のシグナルと言われています。
私たちの筋肉や内蔵、体内の酸素やホルモンは、タンパク質の消化によりできたアミノ酸から作られます。タンパク質自体には味はありませんが、タンパク質を含む食品には、遊離のグルタミン酸をはじめ様々なアミノ酸が豊富に含まれています。
舌で受け取ったうま味情報が脳に伝わることで、私たちの体内では、タンパク質を消化するための準備、即ち唾液、胃液、膵液などの分泌が始まります。うま味は、タンパク質消化を促す大事なシグナルの役割をしているのです。

体内で重要な働きをする「グルタミン酸」

たんぱく質は20種類のアミノ酸からできています。
人の体内で合成することができず食物から摂取しなくてはならないものを必須(不可欠)アミノ酸といい、体内で合成できるものを非必須(可欠)アミノ酸といいます。
必須アミノ酸は重要なもので、非必須アミノ酸は、あってもなくても、どうでもよいように思われがちですが、そうではありません。むしろ、非必須アミノ酸は生きていくためにとくに重要なアミノ酸なので、生体内で合成するシステムが備わっていると考えられます。

グルタミン酸は、身体のアミノ酸(遊離)の中で最も多いアミノ酸のひとつです。わたしたちの身体の中には体重のおよそ2%の割合でグルタミン酸が含まれています。動物性たんぱく質には約11~22%、植物性たんぱく質には約40%のグルタミン酸が含まれています。また、わたしたちは1日の食事のたんぱく質からは、約15~20gのグルタミン酸を摂取しています。グルタミン酸は私たちの生活に最も身近なアミノ酸であるといえるでしょう。

摂取したアミノ酸は、腸から体内へ吸収され、血流を介して体内へと運ばれます。この時、血液中の必須アミノ濃度は上昇しますが、グルタミン酸濃度は上昇しません。多量にグルタミン酸を摂取した場合にも、グルタミン酸濃度が上昇しないのは、腸においてはとりわけグルタミン酸がエネルギー源として重要なはたらきをしていて、摂取したグルタミン酸は殆ど全てが腸で使われているからなのです。
グルタミン酸は、腸で殆ど使われるのにもかかわらず、体内で最も多く存在するアミノ酸です。このことから、腸以外の臓器でグルタミン酸が生産されていることは明らかです。

例えば、脳でもグルタミン酸は大切な働きをしています。グルタミン酸は脳に最も多く存在するアミノ酸で、脳が必要なグルタミン酸は脳の中でグルコースから独自に作られています。
私たちの脳は約1.4kgですが、何と1時間に700gのグルタミン酸を生成し、同量のグルタミン酸が分解されていることが知られています。信じがたいものの、グルタミン酸の代謝は、腸に限らす、脳においても非常に早く行われていることがわかります。

以上のように、グルタミン酸は体内で合成できるため、必須アミノ酸ではありませんが、生命の維持に重要な働きを行うアミノ酸のひとつです。ゆえに、グルタミン酸は遊離アミノ酸として体内にたくさん存在し、活発に代謝が行われているのです。

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